生活保護(葬祭扶助)
葬儀を執り行う人が葬儀費用を捻出できない状況にある場合において、その人の困窮状態により、生活保護法に基づいた葬祭扶助を受けることができます。必要最低限の葬儀にかかる費用が対象となり、支給額には上限があります。利用できる費目が決められていますので、必要以上の儀式は行えません。必ず葬儀を行う前に葬祭扶助の申請をします。生活保護(葬祭扶助)での葬儀においても、葬儀社選びは大事です。
目次
葬祭扶助は、申請者の困窮状態により受給できる制度です
葬祭扶助は、葬儀を執り行う方(遺族・親族など)が困窮のため、どうしても葬儀費用を捻出することができない状況にある場合、その人の収入状況、困窮状態を調査したうえで、扶助の対象とされた場合において、生活保護法の第18条に基づいて葬儀費用として扶助を受けることができる制度です。
- 生活保護法 第18条
- 葬祭扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
- 一 検案
- 二 死体の運搬
- 三 火葬又は埋葬
- 四 納骨その他葬祭のために必要なもの
- 左に掲げる場合において、その葬祭を行う者があるときは、その者に対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
- 一 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。
- 二 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。
(注)条文の前半部分にある、四の「納骨」とは、火葬の後に遺骨を骨壺に収骨すること指します。墓地などへ納骨するための費用は葬祭扶助の対象外になります。
条文の 前半部分で言わんとすることは、要するに、葬儀を出す人が最低限度の生活を維持することも困難な困窮状態にある場合に、最低限度の葬儀をするための費用を扶助します。ということで、これが条文の趣旨となります。
生活保護を受けている、受けていないにかかわらず、「最低限の生活を維持することも困難な困窮状態」が認められれば葬祭扶助を受けることができるということです。
生活保護を受けている方が亡くなったときに、ご家族の方が葬祭扶助が受けられると安易に思い込んでいるような相談を受けることがありますが、あくまで、葬儀を出す人が困窮状態であることが必要であるため、葬祭扶助が受けられるかどうかについては、担当者が、申請者の困窮状態を調査のうえ判断するということになります。
ただ、困窮状況を判断するのは実際的には難しいので、生活保護を受けている方が主になっているようです。
実際的な判断が難しいということは、各自治体や、場合によっては担当者レベルでも判断が変わる可能性が出てきてしまうため、困窮状態のもっともわかりやすい被生活保護者が主になっているということであります。
なお、条文の後半部分は、被生活保護者を含め、身寄りのない人に対する内容ですので、これについてはこのページの最後のほうで説明しています。また、現状、被生活保護者が亡くなって葬祭扶助が適用されている場合もあったりして、条文通りでないこともあるので、それについても後述します。
葬祭扶助で行う葬儀は最低限の葬儀となります
葬祭扶助の受給金額には上限があります。上限の金額は地域により異なりますが、横浜市では、大人(10歳以上)の葬儀で搬送費20,300円・葬祭費198,440円の合計218,740円となります。(2018年10月現在)
この費用内で葬儀を執り行うということになりますが、葬祭扶助が受けられるのは、葬儀を行うにあたって、火葬をするために必要な最低限の部分になるということを承知しておく必要があります。葬祭扶助が適用になるのは下記の費目です。
- 遺体搬送料
- 死亡診断書、死体検案書などの文書作成費
- 遺体保存にかかる費用(ドライアイス・安置料など)
- 棺
- 火葬料
- 骨壷
上記以外の、宗教者にお経をあげてもらったり、お花を出す、式場を使って祭壇を飾る、など、最低限を上回る費用のかかる葬儀は行うことができません。
なぜなら、宗教者に納めるお布施やお花を買う、式場へ支払う代金などが捻出できるのならば、その費用を火葬するための代金に充当することができるからです。要するに、最低限の葬儀とは、火葬のみ(直葬)を意味しています。
葬祭扶助の申請と葬儀の流れ
申請者(葬儀を執り行う方)が横浜市内にお住まいの場合、横浜市内の管轄の福祉事務所に葬祭扶助の申請をします。
たとえば、他県に住む身内が亡くなった場合でも、申請者が横浜市であれば、横浜市の管轄の福祉事務所に申請し、葬祭扶助を受けるという形になります。
葬祭扶助での葬儀を行うためには、必ず葬儀を行う前に管轄の福祉事務所に葬祭扶助の申請をします。
- ご逝去
・葬儀社に葬祭扶助で葬儀を行いたいという事を伝え、葬儀を依頼します。
※事前の段階やこの時点でケースワーカーさんや管轄の福祉事務所に相談し、葬祭扶助が認められるかを確認しておくとスムーズになります。 - 搬送・安置
・葬儀社にご自宅、または安置所へ搬送してもらい、火葬の日まで安置します。 - 葬祭扶助申請、葬儀打ち合わせ
・管轄の福祉事務所に葬祭扶助の申請をし、扶助の対象と認められた場合に、葬祭扶助での葬儀についての打ち合わせを行います。
- 葬儀(直葬)
・葬儀社が予約した日時に火葬が行われます。火葬の後、納骨(収骨)し、解散となります。
葬儀代金は、葬儀社が担当の福祉事務所に請求書を提出し、内容確認などをしたうえで福祉事務所から葬儀社へ支払われます。
葬祭扶助を利用するにあたっての注意事項
上記では、葬祭扶助の対象とされるためには福祉事務所へ申請する必要があるということを説明してきましたが、葬儀については、申請者の方が葬儀社に依頼します。
葬儀を依頼する際には、まず、葬儀社に「葬祭扶助で葬儀を執り行いたい」ということを必ず伝える事が大事です。といいますのも、葬祭扶助の受給とは、葬儀社が葬儀費用の請求書を福祉事務所に提出し、内容項目、費用をチェックしたうえで葬儀社に支払われるものだからです。ご依頼者と福祉事務所間での金銭のやり取りはありません。
何も知らずに、後で戻ってくると思って、生活費などから立て替えて葬儀代金を支払ってしまい、後になって申請をしても、実際には葬儀代金を支払うことができたとみなされ、葬祭扶助を受けることができなくなります。ですので、福祉事務所に申請するタイミングは、必ず、葬儀(火葬)を行う前の段階でなければならないということになります。
葬祭扶助で葬儀をしても、お香典は受け取れます
葬祭扶助での葬儀をした場合でもお香典を受け取ることは問題ありません。お香典として頂いた金銭は収入認定外になるため、一般的には報告の必要もありません。
ただし、お香典返しにかかる費用は葬祭扶助内では認められていませんので、お返しをする場合には自費で購入する必要があります。
身寄りのない方の葬儀
単身で身寄りがない方の葬儀の場合、基本的には、墓地埋葬法が適用され、自治体が火葬する義務を負うことになります。「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。」というものです。
ただ、生活保護法第18条の後半にも、身寄りのない人に対する内容が記載されています。
- ・・・・・
- 左に掲げる場合において、その葬祭を行う者があるときは、その者に対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
- 一 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。
- 二 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。
要するに、身寄りのない方の葬儀について、被生活保護者かどうかを問わず、知人や近隣住民など自発的に葬儀を執り行う事を申し出る第三者が申請をすれば葬祭扶助を受けることができるというものです。
この場合、故人の遺留金品等があればそれを葬祭費に充当します。葬祭扶助基準額に満たない場合でも、その不足分について葬祭扶助が適用になります。
第三者が自発的にがポイントです。申し出る人がいない場合には、葬祭扶助は適用できず、先ほど書いた、墓地埋葬法が適用されます。
葬祭扶助でも墓地埋葬法でも、どちらも公金が使われるのだから、同じじゃないの、と思われるかもしれませんが、お金の出所が違います。葬祭扶助の場合、自治体が費用を負担するのは4分の1で、残りの4分の3は国が負担しますが、墓地埋葬法に基づいた場合、自治体が費用の全額を負担することになります。
このことも、後述するように、葬祭扶助をわかりにくくしている一因です。
葬祭扶助がわかりにくい理由
ここまでは法律の内容に即して説明してきましたが、実際のところは、各自治体に問い合わせたり、葬儀社の担当者から話を聞いても、いろいろなサイトの葬祭扶助関連の情報を見ても、ほんとうはどうなのかと、わかりにくいのが現状です。
自治体の担当者も「ケースバイケース」という言葉をよく使っています。葬儀社の担当者も、この自治体は甘い、あっちの自治体は厳しい、同じ自治体でも福祉事務所によって違う、役所の担当者によっても違う・・・などなど説明してくれたりします。
たしかに、困窮状況の判断はケースバイケースになるでしょうが、自治体側の思惑も絡んでわかりにくくなっている面もあるようです。簡略化して言えば、できれば自治体が費用の全額を負担する墓地埋葬法による火葬はしたくない。4分の1の費用負担ですむ葬祭扶助にしたい、さらには、できれば4分の1の費用負担すらしたくないということがあります。
参照:朝日デジタル新聞 では、身寄りのない人の葬儀でも、自治体が民生委員などに依頼し、葬儀の執行者として葬祭扶助を申請してもらっていた実態が明らかにされています。国のほうからすると、墓地埋葬法による火葬にすべき、となります。
近年は、遺族がいたとしても、引き取りを拒まれることも増えているということもあります。葬祭扶助になじまないケースでも、変に引き取りを拒まれて、墓地埋葬法による火葬にするよりは、葬祭扶助にということも起こっているかもしれません。
また、たとえば、被生活保護者が葬儀執行の申請者にならず、被生活保護者でない他の兄弟や親族が葬儀執行者になれば、葬祭扶助の適用をせずにすみ、 こうなれば、自治体の負担はなくなるので、状況によっては、こうした方向に持っていきたいということもあるかもしれません。
役所の担当者が言う、ケースバイケースには、こうした背景があることもことを理解しておくことも無駄ではないと思います。
葬祭扶助での葬儀でも、葬儀社選びは大切です
最後に、葬祭扶助で葬儀を行う場合においても気をつけたいのは、葬儀社選びです。
葬祭扶助での葬儀でも、申請者が葬儀社を選んで依頼することができます。
葬祭扶助の場合、葬儀を引き受けたがらない葬儀社もあるようですし、雑な扱いをするようなところもあるようで、『ネットで見つけた複数の葬儀社に依頼の電話をしたところ、「葬祭扶助はやっていない」、「今日は対応できない」などと断られてしまい、どうしたらいいのかわからない』とご相談を頂いたことがあります。
また、他のケースでは、お母様がお亡くなりになり、葬儀をださなくてはならない状況の中、病院から紹介された葬儀社に搬送してもらい、安置を終えて、打ち合わせに入った段階で、「葬祭扶助で葬儀を行いたい」と伝えたところ、担当者の態度が急に変わってしまい、うまくやりとりができなくなってしまった、という経験をしたことがあるとおっしゃっていたご相談者の方もいらっしゃいました。
葬祭扶助での葬儀でも、大切な身内の方を見送る気持ちは同じだと思いますし、葬儀社の中でも気持ちのある対応をしてくれるところはありますので、「葬祭扶助だから」等の理由であきらめることはせずに、良心的な葬儀社を選んでいただきたいと思います。